WATAHIROの映画論的Blog

このブログでは私が鑑賞した映画(時にはそれ以外も)の感想や考察などをなるべくゆる〜く記述していこうと思います。

『シャイニング』(1980) スタンリー・キューブリック監督

 

 

 まさに映画史に燦然と輝く名作といって良いだろう。公開から40年以上経った現在でもこの作品の持つ影響力は決して衰えてはいないと個人的には思う。というかキューブリック作品は『2001年宇宙の旅』にしろ、『時計仕掛けのオレンジ』にしろ、後に多大な影響を与え、名作と数えられる作品が多い。
 
 
 たまにあまり頻繁に映画に触れてない人に「おすすめの映画は何?」と聞かれることがあるが、そういう時、本当はキューブリックの作品を挙げたくなるのだが、返ってくる反応が芳しくない事が想像できてしまうので、返答に窮してしまう事がある。
そこでキューブリックの名前を出すと、そもそも名前すら知らないという人が大半である。
 
自分としても確かにキューブリック作品は「玄人向けだよなぁ」と感じてしまう。それぐらいキューブリック作品は一般には伝わりづらい。
 
しかし、この『シャイニング』はそんなキューブリック作品のなかでもどちらかと言うとエンターテイメントに振っている作品なのではないだろうか。そのせいで原作者のスティーブン・キングには原作の骨子を歪められたと批判されたらしいが。
 
 何にせよ、この作品は間違いなく万人におすすめできる映画だろう。と言ってもやはりキューブリック作品だ。誰もが知っている監督ではない。
知り合いや彼女におすすめの映画何?と聞かれたら、是非この映画を挙げて頂き、映画通を気取ってみよう!
 
 小説家志望のジャックは、雪深く冬季には閉鎖されてしまう山上のホテルに管理人として、妻と一人息子を連れ訪れる。
 
この映画の始まりを告げるオープニングから惹きつけられるものがある。
 
 
 ジャック達が雪山のホテルに向かっているであろう車を空撮で捉えた映像であるが、暗く重低音な音楽と相まって底知れぬ不安感をオープニングから煽ってくる。
空から何か事物を捉える映像とは、ヘリや飛行機に乗っているのなら別だが、普通人間が見ている視点とは考えにくい。では一体この空撮映像は何の視点なのだろう。鳥?いや、少なくとも鳥がこの作品に関わる事はない。では神?個人的にはこっちの解釈の方が好きなのだか、判然としない。
何にせよ、何かがこの一家に降り注ぐことが示唆されているような気がしてくる。
 
 ホテルの支配人から、以前の管理人が孤独に苛まれ、斧で家族を惨殺し、自殺したというこのホテルの恐ろしい逸話を聞かされるジャックだったが、気にかけることもなく、住み込みで管理人としての職を引き受ける。しかし、シャイニングという特別な能力を持つ一人息子のダニーは次々と不可思議な現象に遭遇する。
 
この作品の印象的なシーンの一つが、ダニーが三輪車に乗りホテルを縦横無尽に走り回り、それをステディカムを使って背後から追いかけて撮影されるシーンだろう。やはりここでも視点の話になるのだが、ダニーを背後から追いかける視点とは一体誰の視点なのだろう。
 
 三輪車に乗るダニーと同じくらいの高さの視点であることから、大人でもないし、子供でもないようだ。赤ちゃんなら高さ的には合うだろうが、赤ちゃんが三輪車を追いかけられるはずもない。
 
 先述した空撮シーンにもいえることだが、こういった普通ではない視点からは、人間ではない何か別の者の影を感じずにはいられなくなる。ダニーにつきまとう何か、ダニーの身にこれから起こるであろう恐怖を想像してしまう。
 
 ダニーが遭遇する恐怖には237号室の女や廊下に佇む双子の少女達などがあるが、実際これらはホラー作品の道具立てとして効果が発揮されているが、今となっては特に双子の少女はこの作品のシンボル・アイコンとなっている。
これらの存在の正体は作中明らかにはされないが、ダニーが三輪車でホテル内を疾走するシーンと合わせて印象的なシーンとなっている。
だからこそアイコンとして皆に認知されるわけだろうが。
 
 
その後ジャックはホテルに存在する見えざる恐怖によって精神を苛まれ、狂気へと飲み込まれていく。
 
狂気に堕ちたジャックが妻と息子を部屋に追い込んだときに、斧で壊した壁の間から見せる狂乱の表情は先程から述べているように、これまたこの作品のアイコンとなっている。
まさにジャック・ニコルソンといえばこのシーンを挙げる人も多いのではないだろうか。
一度見れば脳内にこびり付くシーンだろう。
 
『シャイニング』は、映像と音楽が相乗効果によって上手くその恐怖を鑑賞者に伝えている。
もしかしたら最近この作品を見た人はだいぶ古臭く感じることだろう。しかし、冒頭で述べたように、この作品は映画史に残る名作である。それはホラー映画のいわば教科書的な面もありつつ、キューブリックの個性が発揮されたまさにハイブリットな作品だからではないだろうか。
 
 2019年には『ドクタースリープ』という続編も公開されている。『シャイニング』の主人公ジャックの一人息子ダニーが大人になった時代の物語である。こちらはホラーの要素もありつつ、アクションシーンなども加え、ヒーロー映画の様相も呈している作品だ。
『シャイニング』を見ていないと十分には楽しめないだろうが、どちらと言えばこちらの作品の方がエンターテインメント作品として楽しむことができるだろう。是非!